五大魚の生態・食性 −−−「中国淡水魚類養殖学」(上)より


コイ (Cyprinus carpio)      

    

 コイは、大型魚類である。 10〜15Kgの個体も、時々見かけるが、2.5Kg前後のものが最も普通である。しかし、成長速度は、草魚、青魚に比べてやや遅い。1冬令魚の体長は、10〜17cm、2冬令魚で22cmくらい、3冬令魚で30cmくらいである。一般的には、雌の方の体重が重い。第一次性成熟に達する年齢は、少なくとも4令で、体長約40cm、体重0.8〜1Kgである。雄魚は、時には3令魚で成熟する。その体長は、約25〜30cmである。暖・熱帯地域に成長するグループでは、なお一層早く成熟する。成熟したコイは、どんな類型の水体中でも、産卵繁殖する。抱卵量は、一般的には、一尾につき30〜50万粒で、数回に分けて排卵する。卵の粘性は大きく、産出後水草に附着させる。卵の直径は、1.7mmくらいである。水温が25℃程度の時、1.5〜2日で孵化する。孵化直後の幼魚は、酸素が比較的十分にある水表近くの水草の茎や葉にくっつく。

 コイは、雑食性の種である。軟体動物、高等水生植物、底棲動物から、小さな藻類に至るまで、みなその通常の食物である。咽頭歯は、3列あって、それぞれいろいろな形をしており、あるものは水草を切断し、あるものは巻貝を押しつぶすことができる。これも構造上の一種の適応である。コイは食料に対する適応の範囲が広く、また、その他の生活条件に対する要求もさほど厳しくないので、生活力は特別強い。コイが分布の広い種になっているのは、決して偶然の結果ではない。

 水体中の食物の基礎組成が、季節的差異を見せ、魚体の大きさも異なるので、異なった時期の摂食状況もそれにしたがって変化する。夏季の摂食強度は最も大きく、冬季はほとんど摂食しない。体長15mm程度の小ゴイは、食物のほとんどが藻類と小型輪虫である。3cm以上の幼魚では、食物は主に、枝角類、橈脚類、ユスリカ幼虫及びその他の昆虫の幼虫である。20cm以上になると、ユスリカ幼虫が主要食物となる。1〜2令以上の個体では、水生高等植物、巻貝を食べるが、高等植物が主たる食料であるばかりでなく、大量の藻類およびいろいろな屑類も、腸管中に出現する。


草魚 (Ctenopharyngodon idellus)

    

 草魚は、コイ科の中で、青魚にやや近い種類である。分布、個体の大きさ、産卵習性、幼魚の肥育度、越冬状況は青魚のそれと大差ない。草魚の幼魚は、往々にして群をなして深場の凹地で越冬し、一般的には成魚と同棲しない。成長速度は、青魚に比べてやや遅く、6冬令魚の平均体長は、約60cmである。幼魚の成長は青魚のそれと似ている。

 草魚の名称は、草食のために名づけられたものである。成魚は完全に高等水生植物を主要な食料とする。その食料になる種類は、各水体中に存在する種類によって異なる。一般的にはセキショウモ、クロモ、イバラモ、ヒルムシロ、アオウキクサ、ミジンコウキクサが、最も好まれる種類である。実際問題としては、大多数の水生植物を摂ることができるが、種類数が多くある水体中においてのみ、比較的やわらかい種類を選択するのである。いくらかの乾性 (Xerophyte)も草魚の好むものであり、水辺に生えているヨモギなどは、その一種である。浸水後の水没有草地区は、えてして草魚の肥育場所になりやすい。

 草魚は、「素食性」(なまぐさものを食べない意、即ち、草食)のため、腸管が長く、成体では、普通体長の2.5倍である。体長1cm未満の魚苗の食物は、主として小型浮遊動物と藻類で、腸管は直線状で、体長の1/2ぐらいである。成長にしたがって、腸管もだんだん長くなり、食物も輪虫、小型ユスリカ幼虫、浮遊甲殻類をとるようになる。3cm以上の幼魚では、ほとんど「素食性」になる。もちろん、幼魚がどんな食物を主として摂食しているかは、その水体中の食料の基礎の具体的状況に関係してちがってくる。


青魚 (Mylopharyngodon piceus) 

 

 青魚は、コイ科魚類中のウグイ亜科の大型魚類で、分布は広い。最大重量は、35〜40Kgに達し、河川湖沼中には、普通15〜25Kgのものが見られる。この魚の成長速度は極めて速く、1冬令魚で0.25〜0.5Kgになり、2冬令魚では1.5〜2.5Kg、3冬令魚は、良い環境に恵まれれば5Kg程度に達する。幼魚は、1ヶ月成長すると、体長は2cmになり、2ヶ月で4cm、3ヶ月で8cmになる。毎年4月下旬から6月までの間に(各地の気温の寒暖により、遅速はあるが)、川の適当な地点に遡上して産卵繁殖する(草魚、青魚、レンギョ、コクレン、XX魚の五飼養魚は、目下のところまだ静水中で自然産卵できない)。最小成熟年齢は、少なくても6冬令で、体長約70cmである。7Kgのもので抱卵量は40万粒である。魚卵と孵化後間もない魚苗は、流れにしたがって、下流へと漂流する。約2週間後、独立して遊動し、摂食する時期を迎える。即ち、河川の岸辺や、附属水体中で肥育が進行するのである。産卵後の親魚も、支流あるいは湖沼に戻って、強烈な摂食をみせる。性成熟に達していない成魚は、一般に巻貝の多い比較的大きな支流と湖沼中で生活し、冬季は水深のある支流や、本流や、凹地で越冬する。

 青魚の食物は単純で、軟体動物の巻貝、たとえば、Viviparus(Idiopoma)quadratusや、Radix auricularia plicatulaなどが主要な食料である。水体中に、シジミ、淡水産イガイ、マシジミなどがあれば、同様にそれらを摂する。やや小さな個体では、時に底棲動物であるトンボの幼虫、ユスリカ幼虫及びコケムシの生殖胞、軟体動物のグロキディウム幼生などを食べている。しかし、幼い青魚では、浮遊動物の枝角類を主に摂っているのが目立つ。概観すると、青魚は一種の肉食性の魚である。そのために、腸管は長くない。体長の約125%くらいである。軟体動物は、底棲生活を送っているので、青魚も索餌のため、底棲生活に近い魚類になっている。人工飼養のもとでは、青魚は、豆かす、菜種油の絞りかす、酒かすなどの植物性人工餌料も好んで食べる。青魚の咽頭歯の上には、一列の臼歯状の咽頭歯があり、巻貝の殻を押しつぶすことができる。このような構造は、明らかに食性にもとづく適応である。


ハクレン (Hypophthalmichthys molitrix)

    

 ハクレンは、コイ科中のハクレン亜科に属し、繁殖習性は、草魚、青魚と似ている。しかし、成熟期はやや早く、一般に4〜5令で体長50〜60cm、体重4〜5Kgで産卵できる。珠江流域のハクレンは、成熟年齢と大きさが目立って小さい。たぶん、独特な地方類型と考えてよいようだ。食物は、浮遊植物を主としているが、幼期は浮遊動物をやや多く摂っている。ハクレンも大型魚類で、10〜15Kgの個体が河川中によく見られる。一般的には、2令魚の体長は30cm、体重0.5Kgくらいで、3令魚は40cm、1Kg以上に達する。魚卵と孵化直後の魚苗は、流れにしたがって降河し、幼魚は河の湾や湖沼などの附属水体中で肥育する。未成熟の成魚は、春季河道から、その支流または湖沼中の食物の多産地帯に入り、摂食する。成熟した個体は、回遊して、幹流に戻り、その流水中で産卵を行い、繁殖後再び湖沼中で肥育し、冬季は、また逆戻りして、河床の深場で越冬する。

 ハクレンの摂食方法は、これまた特殊な類型のものである。その鰓耙(サイハ)は、コクレンのそれと同じようであるが、そのしくみはもっと密である。そのために微小浮遊植物(藻類)も、水にしたがって口外に濾出しなく、その食物の基本的組成になるのである。もちろん、輪虫や小型甲殻類も、その腸管にしばしば出現するし、幼少期では(体長15cm前後)、いくらかの小型浮遊動物は、その主要な食料となっている。

 ハクレンは、一種の典型的な藻類食魚類といえる。その主要成分は、各種珪藻、ケラティユム、ディノプリオン、黄藻などである。多くの緑藻、ユグレーナ、藍藻などの細胞膜の外側には膠質または繊維質の膜がある。しかし、ハクレンは、これらの物質を消化する消化酵素を持っていないので、それらを利用することは不可能である。ハクレンの腸管は、主に動物性食料を摂食している幼期においては、やはり短く、体長にも及ばない。その後、だんだん増していき、体長の10倍くらいになる。腸管の充実度は、春、夏両季においては大きく、水体中の浮遊植物量の少ない時期では小さく、沙泥がその大部分を占める。冬季になると、まだ摂食はしているが、数量は最低限度にまで減じている。


コクレン (Aristichthys nobilis)

 

 コクレンは、ハクレンに極めて近似している種である。成長速度は、ハクレンよりやや速く、個体は一般的に大きい。しかし、活動力は、ハクレンに及ばない(ハクレンは驚かされると、よく跳躍する)。食性は浮遊動物を主とする。一般には、水体の中層で生活し、繁殖習性、回遊リズムは、ハクレンのそれとよく似ている。各種水体中におけるコクレンの魚群は、比較的小さく、それは幼魚の生存率とおそらく関係していると思われる。

 コクレンの食物は、やはり水体中に広く分布しているプランクトンである。ハクレンと同じく、密に配列している鰓耙の濾過作用を通して、水中の小生物を集め、腸管へと送る。コクレンの食物の主要組成は、輪虫、甲殻類の枝角類と橈脚類で、多くの藻類も含んでいる。個体数量から見ると、動物性食物の方が、主要な成分となっている。コクレン(ハクレンも同様である)の摂食の特長から、それが、絶えず摂食する種類であることが見とれる。とにかく、口を休まずに開いておけば、食物は、水とともに口腔内に入るのである。食性の特長から、もう一つ、それが中上層の類型のものであることを知ることができる。コクレンの腸管の長さは、一般的に体長の5倍である。


HP管理人より:

本文は「中国淡水研魚類養殖学」(上)から、生物学のパートを一部抜粋記述したものです。コイの挿絵をみると、日本のコイに比べて、その体高が随分と高いのですが、これは養殖用の鯉だからなのかもしれません。なお、各咽頭歯の写真は、私(遠藤和彦)個人のコレクションから撮影しました。   (平成15年4月6日)

 

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