テキスト アオウオについて   小西茂木 述     S59.5.31

東京都営釣り仙郷(葛飾区水元小合町)で島根政吉さんが、全長135cm、重さ33.375kgの巨大なアオウオを釣り上げたのは、昭和34年1月25日午後のことであった。それから数年後、私は島根さん宅を訪ねた。釣り好きの老人はすでに亡くなられていたが、遺族にお会いして、一端は釣り上げたものの哀れになって水に放してやったところが、数日後に釣り糸を垂れる島根さんの小船のそばに助けられた礼を言いに浮き上がってきて・・・という因縁話をうかがったことは、旧著『淡水大魚釣り』に書いた。私もせめて1度はアオウオと引き合ってみたいと、永年思い続けた。それ以来二十有余年、釣運に恵まれなかったが、釣友高橋富士夫会員が、私に代わって念願を果たしてくれたのである。私はわがことのように喜んだ。昭和59年5月1日、利根川右岸・佐原の岸で、ついに釣り上げたのだ。それは全長100cm重さ約12kg。まだまだ若魚で島根さんの釣果と比べ物にはならないが、まぎれもないアオウオであった。私は峰岸忠雄会員の協力を得て酸素ボンベを用意し、活かしておきたいと努力したが、数日間の命であった。
アオウオはソウギョ・レンギョの種苗に混じって中国大陸から移植されたが、日本の風土に合わないのかどうか、利根川で天然繁殖しているものの、きわめて数が少ない。アオウオがあたれば幸運というほかなく 、しかも成魚となれば大体30Kg級、幻の大魚と呼ばれるゆえんである。

高橋会員のアオウオを死後解体して、まず驚いたのは、まだ若魚だのにその歯の巨大なことであった。アオウオもコイ科で歯があるのはやはり下あごだけ。上あごには下の歯とかみ合わせになる臼(うす)と呼ばれる円筒形の硬骨があり、その先端は直径45mm浅くくぼんでいる。(コイ、ソウギョ、レンギョも同様の構造だが歯と臼の形はそれぞれ違っている。)図左下は横向きに切断した頭を上から見た形だが、歯の表面は滑らかなエナメル質で硬く、最大の1本は30X13mm大で、おたふく豆にそっくりの形。口先の左右の各2個の歯だけは、湯呑みのふたに似た凹型でその内部には肉が詰まっていた。人の歯の歯茎と同様にエサの硬さを見分ける役目をするのであろう。他の歯はあごの骨に直接続いている。歯全体の前後の長さ約70mm。好餌のタニシの殻をひとかみで噛み砕く。

側線ウロコは体の上下のほぼ中央を尾柄まで1列に並び小穴が空いている。この小穴からウロコの裏側の溝を通じて、水は魚体の皮膚に直に触れている。そのため水圧によって水深がわかり、水温や水中に伝わる音(水の振動)を感じ取り、暗夜でも障害物に衝突せずに回遊できるのである。島根さんの上げたものの側線ウロコは直径約45mm、高橋会員のものは約30mm大。
側線ウロコは指先でつまんだくらいではとてもはぎとれないほどぴったりと密着しているが、他の部分は非常にはがれやすい。タモの中で暴れ、網目でこすられると簡単にはがれる。生きているうちに水から上げると数分から10分程度でウロコの下の皮膚に出血が始まり、ナスビ色に黒味がかった魚体全体がピンク色に変わり、アオウオ(利根川下流の方言で黒ゴイというが)変じてアカウオになってしまう。(レンギョ、ヘラブナを水から上げると皮下出血するがアオウオのように体全体が変色することはない。)

天然繁殖する利根川では、近年アオウオが徐々に殖えていると埼玉県水試でもいうが、アオウオを専門に狙うのは無理だが、好物のタニシの多い深いトロ場がポイント。タニシだけでは集魚効果が弱いからネリエサの併用がぜひ必要。コイ同様の雑食性だから、釣運に恵まれればアオウオが当たろう。