【会報120号記念】 コイ・ソウギョ・レンギョの歯  小西茂木解説 (昭和56年4月30日)

 

魚体の大きさをあらわす全長と体長の語は、一般に混同されていますが、「全長」は吻端(ふんたん=口先)から尾びれの末端までの長さ、「体長」は脊椎骨の末端までの長さです。全長は成長度を示す場合に用いられ、体長は、体の他の部分の長さとの比によって、魚種を分類する場合に用いられます。歯も分類の重要な手がかりとなります。コイをはじめコイ科の多くの魚の歯は口先でなく、下あごの奥の咽頭骨に上向きにはえているので、特に咽頭歯(いんとうし)とよばれています。この歯はつまり下歯にあたるわけで、上歯はなく、そのかわりに臼(うす)とよばれている軟骨部分と、かみ合わせになっていて、臼には歯形がついています。アオウオの歯だけは、私の手もとにないので、『中国淡水魚類養殖学』(周達生訳)をしらべてみると、「咽頭骨の上には臼歯(ヒトの奥歯に似た形)状の咽頭歯があり、巻貝(タニシなど)などをかみつぶす」とありました。

コイの歯 まず写真と図を見てください。写真の歯の持ち主は70cm級の野ゴイで、咽頭歯の片側だけを写したものです。4本ならんでいて、まん中のものがもっとも大きく、長さ(高さ)は約10ミリ、先端はゆがんだ円形で、長径10ミリ、短径8ミリ。平らな表面に細い溝のようなくぼみがあって、写真には黒く写っています。歯の表面全体は琺瑯(ほうろう)質の、非常に堅い材質でできています。ヤスリでこすっても傷がつきません。この歯なら好餌のタニシのカラを噛み砕くことぐらい、平気です。

ソウギョの歯】 咽頭骨の片側に5本の大歯と、その内側に2本の小歯があり、両側合わせて14本が、上あごの臼とかみ合わせになっています。この歯の持ち主は、90センチ級。手カギに掛けたものの重くて片手では持ち上げられず、安全なところまで引きずっていったものでした。写真では、図とは反対向きに片側だけを写してあります。大歯5本のうち、2本は欠けています。やはり琺瑯質でできていて、最大のものは長さ(高さ)30ミリ、歯の形は、円筒楕円形で、その先端が馬の足先のように曲がり(図、参照)、臼にうまく当るようになっています。先端の直径は17ミリ、短径は3ミリ。ノコギリの刃(は)形の、細かいギザギザがついています。5本の大歯全体の幅は約35ミリ。これがのどの奥の左右に向きあってついているわけで、かなりな大きさです。特に注意してもらいたいのは、歯先のギザギザです。主として草を天然飼料にしている草魚のふんは、3〜5ミリほどの長さにかみきられた草のセンイが互いに交差する形にからみ合い、米俵かビール樽に似た形になって岸にただよいつき、幾時間か形がくずれずに浮いています。利根川や江戸川でコイをねらっていて、ソウギョにハリスをかみ切られた会員が幾人かいます。ネリエサに包まれたハリスは、ソウギョには甘くてうまい水草と変わりがありません。そこで体を動かさずに静かにハリスをかみ切ってしまうわけです。ソウギョの食い込みのアタリはごく軽く、かすか。注意していなければ見のがしてしまいます。

レンギョの歯】 咽頭歯はコイやソウギョと同じ位置にあり、やはり左右対称ですが、片側に4本、計8本で、上あごの臼には歯と同じ形のくぼみがついています。ソウギョの歯は咽頭骨に、杭を打ち込んだような形に直立していて、歯の先でエサをかみ切るが、レンギョは歯の片面全体が臼とかみ合わさるようになっていて、臼に当る片面はスプーン状に少しくぼんでいます。その反対側だけ琺瑯質です。両魚とも歯と歯の間に2〜4ミリの隙間があり、櫛(くし)形です。写真の歯の最大は長さ20ミリ幅8ミリ。各魚とも歯髄があります。